古事記(こじき)は、日本の神々の物語、国の成り立ち、歴代天皇の系譜を伝える、日本に現存する最古の書物です。神社の御祭神を調べると、天照大御神、須佐之男命、大国主神など、古事記に登場する神々の名を多く目にします。
古事記を知ることは、神話を暗記することではありません。神社に祀られる神様が、どの物語で何を経験し、どのような働きを示したのかを理解する入口です。第1回では、古事記がいつ、誰によって、何のために作られたのかを初心者向けに解説します。
古事記とは日本に現存する最古の書物
古事記は、和銅5年(712年)に完成したとされる全三巻の書物です。天地の始まりから神々の誕生、国生み、天孫降臨、初代神武天皇以後の系譜と物語を記しています。
「日本最古の歴史書」と説明されることもありますが、現代の歴史書とは性格が異なります。神話、伝承、歌謡、系譜が一つに編まれ、日本人が世界と国の始まりをどのように捉えていたかを伝えています。
なぜ古事記が作られたのか
古事記の序文によれば、天武天皇は諸家に伝わる帝紀や旧辞に誤りや相違があることを憂い、内容を整理して後世へ伝えようとしました。
帝紀は天皇の系譜、旧辞は古くから伝わる物語や伝承を指すと考えられます。各氏族が別々に伝えていた内容を整え、国の成り立ちと皇統の物語を一つにまとめることが編纂の背景にありました。
稗田阿礼は何をした人物か
稗田阿礼(ひえだのあれ)は、天武天皇の命によって帝紀と旧辞を誦習した人物と伝えられます。「誦習」は、声に出して読み覚え、内容を身につけることです。
阿礼について分かっていることは多くありません。性別についても諸説があり、確定していません。そのため、事実として確認できる範囲を超えて人物像を作らないことが大切です。
確かなのは、古い系譜と物語を記憶し、古事記編纂の重要な基礎を担ったと序文に記されていることです。
太安万侶は何をした人物か
太安万侶(おおのやすまろ)は、元明天皇の命を受け、稗田阿礼が誦習した内容を選び、整理し、文章として記録した人物です。和銅5年正月に古事記を献上したとされています。
つまり、稗田阿礼は伝承を記憶し伝える役割、太安万侶はそれを書物として編纂する役割を担ったと整理できます。一般に「古事記の作者」と一人だけを挙げるより、複数の人と長い伝承の積み重ねによって成立した書物として捉える方が正確です。
古事記は上巻・中巻・下巻の三巻
| 巻 | 主な内容 |
|---|---|
| 上巻 | 天地の始まり、国生み、神々の物語、天孫降臨 |
| 中巻 | 神武天皇から応神天皇までの系譜と物語 |
| 下巻 | 仁徳天皇から推古天皇までの系譜と物語 |
神社や御祭神を学ぶ入口としては、神々の物語が多い上巻から読むと関係をつかみやすくなります。
古事記の原文は漢文なのか
古事記は漢字で記されていますが、全体が中国の漢文そのままというわけではありません。漢文調の文章、日本語の語順を表すための用法、音を表すために漢字を使う表記が混在しています。
序文の冒頭には次のような文があります。
臣安萬侶言。夫混元既凝、氣象未效。
大意は、「臣下の安万侶が申し上げます。天地がまだ分かれず、物の姿も現れていなかった頃」という世界の始まりへの導入です。原文だけでは難しいため、このシリーズでは必要な短い原文、読み下し、現代語の意味を併記していきます。
古事記と日本書紀の違い
古事記の約八年後、養老4年(720年)に日本書紀が完成しました。どちらも神代からの物語を含みますが、古事記は国内の伝承と皇統の物語を中心にまとめ、日本書紀は漢文による国家の正史として対外的な性格も持ちます。
同じ神話でも内容や表記が異なる場合があります。どちらか一方を正解として排除するのではなく、伝承の違いを読み比べることで理解が深まります。
神社参拝と古事記がつながる理由
神社の由緒には、御祭神の名前と古事記の物語が記されていることがあります。参拝前に物語を知ると、神様の御神徳を単なる「願い事の種類」としてではなく、その神様が物語の中で示した働きとして理解できます。
御祭神の調べ方は御祭神とは何か、天照大御神の物語は天照大御神と天岩戸神話をご覧ください。
古事記を学ぶ順番
- 古事記が作られた背景と登場人物を知る
- 天地開闢と最初の神々を学ぶ
- 伊邪那岐命・伊邪那美命の国生みを読む
- 天照大御神・須佐之男命・大国主神の物語へ進む
- 御祭神と実際の神社を結びつける
物語だけを急いで覚えるより、「この神様はどの物語で、どのような働きをしたか」を一柱ずつ整理すると、神社参拝に活かしやすくなります。
English summary: What is the Kojiki?
The Kojiki, completed in 712, is the oldest surviving book in Japan. It contains myths about the origins of the world and Japan, stories of the kami, imperial genealogies and ancient songs. According to its preface, Hieda no Are preserved the traditions through recitation, and Ō no Yasumaro compiled them into written form under the order of Empress Genmei.
Learning the Kojiki helps visitors understand the kami enshrined at Shinto shrines and the stories behind their divine virtues.
古事記・神社を体系的に学ぶ
古事記・神社講座では、古事記の物語と御祭神、御神徳、神社参拝を結びつけて学びます。関連する講座の全体像は講座一覧をご覧ください。
まとめ
古事記は、712年に成立した日本最古の現存書です。稗田阿礼が誦習した帝紀・旧辞を、太安万侶が元明天皇の命によって記録・編纂しました。神々の物語を知ることで、神社の御祭神と御神徳をより深く理解できます。

