古事記は三つの巻から成り立っています
古事記は、上巻・中巻・下巻の三巻で構成されています。神々の物語だけが続く書物と思われることがありますが、読み進めると神代から天皇の時代へと移り、物語の性格も変化していきます。
私は古事記を学ぶ皆さんに、最初から神名をすべて覚えようとせず、「いま三巻のどこを読んでいるか」を意識するようお伝えしたいと思います。全体の地図を持つと、神々の系譜、国土の成り立ち、皇統の物語がつながって見えるからです。
古事記はローマ字で Kojiki、英語では一般に Records of Ancient Matters と説明されます。この記事では、原典の構成と後世の解釈を混同しないように、三巻の範囲を整理します。
上巻・中巻・下巻の基本構成
| 巻 | 読み・ローマ字 | 主な範囲 | 短い英語説明 |
|---|---|---|---|
| 上巻 | かみつまき/Kamitsumaki | 天地初発から神代、天孫降臨、神武天皇につながる系譜 | Age of the Gods and origins |
| 中巻 | なかつまき/Nakatsumaki | 神武天皇から応神天皇まで | Early imperial narratives |
| 下巻 | しもつまき/Shimotsumaki | 仁徳天皇から推古天皇まで | Later imperial records |
巻名の読みには「上つ巻」「中つ巻」「下つ巻」という表現もあります。現代の案内では上巻・中巻・下巻と書き、内容を三つに区分して理解するのが一般的です。
上巻|天地の始まりから神武天皇へ
上巻は、天地が初めて現れた場面から始まります。天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神をはじめとする神々が成り、伊邪那岐命・伊邪那美命による国生み、神生みへ進みます。
さらに、天照大御神と須佐之男命、大国主神の国作りと国譲り、天孫降臨、山幸彦と海幸彦の物語を経て、鵜葺草葺不合命と、その御子である神倭伊波礼毘古命へつながります。神倭伊波礼毘古命は、のちの神武天皇として語られる人物です。
上巻の中心は、歴史年表というより、世界・国土・祭祀・皇統の由来を物語として示すことにあります。天地開闢と造化三神を先に読むと、冒頭の流れをつかみやすくなります。
中巻|神武天皇から応神天皇まで
中巻は神武天皇の物語から始まり、応神天皇までを扱います。神々の時代から人の時代へ、舞台が移っていく巻です。
神武東征、崇神天皇の時代、倭建命の東西への遠征、神功皇后と応神天皇に関わる物語などが含まれます。天皇の系譜だけでなく、歌謡、戦い、婚姻、兄弟や親子の葛藤も描かれます。
ここで注意したいのは、古事記の物語を、そのまま現代の意味での実証的な歴史記録と同一視しないことです。原典に何が書かれているか、歴史学・考古学が何を明らかにしているか、後世にどのような信仰が形成されたかは、分けて考える必要があります。
下巻|仁徳天皇から推古天皇まで
下巻は仁徳天皇から推古天皇までを扱います。中巻に比べると、後半へ進むほど物語的な記述が少なくなり、系譜や出来事の記録が中心になる部分もあります。
仁徳天皇と皇后・磐之媛命に関わる歌物語、允恭天皇、雄略天皇、継体天皇を経て、推古天皇へと続きます。古事記は推古天皇の時代で終わります。
古事記が編纂されたのは和銅五年(712年)です。推古天皇の時代と編纂時点の間にも時間があります。どの時代の出来事を、どの時代に、どのような目的でまとめたのかという視点を持つことが大切です。
序文はどこに位置づけられるのか
古事記の冒頭には、太安万侶が元明天皇へ献上したことを記す序文があります。そこには、天武天皇が稗田阿礼に帝紀・旧辞を誦習させ、元明天皇の命によって太安万侶が撰録した経緯が述べられます。
ただし、序文の成立や文体については研究上の議論もあります。一般向けの学習では、まず「古事記自身が編纂経緯をどのように説明しているか」を読み、その後に研究上の論点を区別して学ぶとよいでしょう。
古事記の成立・稗田阿礼と太安万侶では、この背景を初心者向けに整理しています。
三巻を学ぶ順番
- 三巻の範囲を一枚の表で確認する
- 上巻の主要な神々と物語のつながりを追う
- 中巻で神代から天皇の時代への移行を見る
- 下巻で物語と系譜の記録の変化を見る
- 原典・後世の信仰・現代の解釈を分けてノートにする
私は、最初に上巻だけを細かく読み込みすぎるより、三巻の全体像を確認してから戻る方法をおすすめします。古事記が「どこから始まり、どこで終わる書物なのか」が見えていると、一柱の神様を学ぶときにも位置づけが分かります。
原典の記述と後世の信仰を区別する
神社で語られる御神徳や地域の伝承には、古事記の記述をもとにしながら、長い歴史のなかで育まれたものがあります。これらは大切な文化ですが、「古事記本文に直接書かれていること」と「後世に形成された信仰」は同じではありません。
また、私が講座でお伝えする読み方も、原典そのものではなく、現代の皆さんが理解するための解説です。原文、歴史的研究、信仰、解釈を分けることで、古事記を尊重しながら深く学べます。
古事記を体系的に学びたい皆さんへ
古事記・神社講座では、神名を単独で覚えるのではなく、神々の系譜、物語の順序、神社の御祭神との関係を体系的に学びます。
皆さんが神社を参拝するとき、御祭神が古事記のどの場面に登場するのかを知っていると、由緒書の読み方も変わります。まずは上巻・中巻・下巻という三つの大きな流れを、古事記学習の地図として役立ててください。

